2012年1月24日火曜日

コミュニケーションとしての答案

文化の違いを超えていい人間関係を作っていく上で、コミュニケーションは極めて重要となります。春学期と違って、今学期では「コミュニケーション」を特にキーワードにはしていませんが、講義で話したような誤解などを克服する上でもっとも重要な手段は、やはり相手とのコミュニケーションに他ならないでしょう。コミュニケーションをとる上で特に重要だと思うのは、「話が噛み合うようにすること」と「十分な説明をすること」、「正直に伝えること」です。試験での私たちの間のコミュニケーションの場合にもこの三つはたいへん重要となります。ここで、この三つの観点から、試験問題に対する答案の書き方について考えてみたいと思います。

  • 話が噛み合うようにすること

    本講義の試験問題では「Aを書いた上で、Bを説明してください」のような表現をよく使います。説明するまでもないと思いますが、噛み合うような答案を書くとすれば、まず「A」を書かなければなりません。しかし、その「A」にまったくふれない答案が意外と多い。「書かない」のではなく「書けない」からそういう答案になってしまっているケースが多いだろうと思います。しかし、同じ学生の別の問題の答案に、その肝心な「A」を見て「ちゃんとわかっているなら、どうしてもう一つの答案で触れなかったのか」と不思議に思ったことも少なくありません。

    本講義の「Aを書いた上で、Bを説明してください」という形式の問題の場合、最後に「(配点=10+10)」のように配点を示すことにしています。「10+10」というのは、20点満点の問題の内訳は、「Aを書く」部分が10点で、同様に「Bを説明」部分も10点だということです。「Aを書く」部分を無視して説明しようとしても、「Aを書く」部分を無視したということで最初から点数の半分を放棄したということになります。このように、問題の文言が採点基準となりますので、問題と答案がよく噛み合うようにしてほしいと思います。答案を書いた後に、急いで試験場を後にするのではなく、問題が求めている内容等が答案に含まれているかどうかを再度チェックしてください。

  • 十分な説明をすること

    十分に問題と答案とが噛み合うように書こうとすれば、自ずと十分な説明になるはずだろうと思いますが、舌足らずで断片的な答案の書き方が多いので、改めて「十分な説明」の大切さを強調したいと思います。例えば、「AとBの関係を説明してください」ような問題なら、「Bは何々だから」というのは、まず、Aにはまったく触れていないので、どのような関係があるかについては想像するしかありません。「AとBの関係」を説明するなら、AとBの共通点や違い、接点などが読者に伝わるようにしなければなりません。

  • 正直に答えること

    論述形式の試験問題に対して、答えがわからない学生がごまかそうとするのは、よくあることです。しかし、実世界では「わからない場合にはわかるようなふりをしてごまかす」ことは悲惨な結果につながることが多いことを忘れてはならないと思います。従って、私は「ごまかし」と断定できる答案に厳しく、逆に「正直」な答案にはやや甘くします。例えば、テキストのタイトルにある語句から想像して、「ごまかし」の答案をでっちあげようとしてと判断した場合には0点にしますが、「テキストの一部しか読むことができなかったが、私が読んだ箇所では・・・」のように正直に書かれた答案をやや甘く採点します。ぜひ、「ごまかし」をせずに、正直に問題に答えてください。

コミュニケーションとしては、「試験」というのはやや不自然な側面があることは否めません。片方(教員)が強制的に「答え」だけを要求する形式は、自由に言葉のキャッチボールが続く会話とは著しく異なっています。しかし、それでも試験の「問題」に対して「答案」を書くという行為はコミュニケーションの一種であることに変わりはないと思います。試験でも実世界でも「質問と噛み合ない答えをする」ことや「理解されないような断片的な答えをする」こと、「相手の不信感を買うような不誠実な答えをする」ことはいい結果につながらないと思いますので、上記の三点に十分に注意していただきたいと思います。

未提出課題

課題は成績全体の2割となります。締切は過ぎていませすが、遅れてでも提出した方が提出しない場合よりいいです。研究棟4階の408号室(マスデンの研究室)の横にあるポストにいれてください。課題の書き方などについてはここをクリックしてください。

「メガチャーチ」について

次の質問が届きました。
89ページのメガチャーチについてですが危険(暴力、犯罪、ドラッグ)からセキュリティを求めてる点をアメリカではメガチャーチと称されていますが、アメリカに限らず世界各国で危険から安全を求めてる団体があると思います。日本の場合はないのでしょうか?

メガチャーチについていまいち理解できないのでお願いします。
次の答えを送りました。
このメガチャーチに関する記述が「セキュリティへのパラノイア」という章の中の一節となっていることに違和感があります。もちろん、「ディストピア[理想郷ユートピアの正反対の社会、つまり、問題だらけの世の中]から閉ざされた空間や関係性と『セキュリティ』を希求している点は」同じと書いていますが、実際に説明を読んでみると「ゲーテッド・コミュニティ」のように「閉ざされた」空間ではないということがわかります。「セキュリティ」という概念で、「ゲーテッド・コミュニティ」と「メガチャーチ」とを結びつけることには多少無理があるように思いますが、「ゲーテッド・コミュニティ」も「メガチャーチ」も非常に重要な社会現象であることは間違いないと思います。

メガチャーチはゲーテッド・コミュニティほど排他的なものではないと思いますが、しかし、似たような考えの人が集まり、結果的に同じ価値観を持つとしか交流しなくなるという問題点はあるだろうと思います。アメリカ人同士の間の亀裂のもう一つの現れと言えるのではないか思います。

とにかく、試験については、ごく理論的なこと(セキュリティとの関係、アメリカ人同士の間の亀裂の現れの一つかどうかなど)よりも、「メガチャーチ」とは大体どういうものかを理解して、説明できれば十分だと思います。「メガチャーチ」とは大体どういうものかについては、おそらく本にある説明を読み直してみるとだいたいわかるだろうと思います。 読み直してもピンと来ないところがあれば、メールで記述に関する具体的な質問を送ってください。

『愛国の作法』について

『愛国の作法』が品切れとなったため、テキストを『アメリカン・デモクラシーの逆説』に変更せざるを得ませんでしたが、テキスト変更より先に『愛国の作法』を購入した学生のために、『アメリカン・デモクラシーの逆説』に関する問題の代わりに選択できる『愛国の作法』に関する問題を用意すると言いました。その関連で次の質問を受けました。
愛国の作法の本を読んでいるのですが、正直理解するのが難しいです。それで『アメリカンデモクラシーの逆説』の方は試験のヒントなど書いてあったので、よかったら愛国の作法の試験のヒントもホームページ上に載せてほしいです。
既に参考になる投稿がこのブログにあります。参考になる順(投稿された日付順ではなく)にリストアップします。
なお、昨日(月曜日)、丸善にあった『アメリカン・デモクラシーの逆説』が売り切れました。このようなことがあるかも知れないということで講義で早目に購入することを進めました。本来は『アメリカン・デモクラシーの逆説』に関する問題に答えるはずの学生でも、『愛国の作法』を試験までに読むことができれば、その問題答えてもいいです。

「市場による規制」について

次の質問が届きました。
「アメリカン・デモクラシーの逆説」の58ページに、「政府による規制」よりも「市場による規制」、つまり企業のほうが~ こうした逆説の生じる余地が増幅した。とあります。これは政府の政策や軍事・安全保障、行政が民間企業のロビイストによって支配され、政府は民間企業の意向に沿った政策をしているということなのでしょうか?また、逆説の生じていない状態というのは、政府が民間企業からの圧力を受けていない状態ということですか?この部分がよくわかりません。
次の答えを送りました。
「民間企業の意向に沿った政策」になってしまうというのはそのとおりです。「市場による規制」というのは耳慣れない表現ですが、おそらく市場にまかせれば、物事がアダム・スミスが考えてような「見えざる手」によって良い方向へ導かれるだろう、という発想だと思います。「市場調整機能」という語句はことのことを指していると思います。

58ページで言う「こうした逆説」については、ここで著者がどのような逆説を意図しているかについては今ひとつ自信はありませんが、おそらく公益につながるはずの自由がむしろ公益を損なわれてしまっているということではないかと思います。「逆説の生じていない状態」ということではなく、以前にも増して「逆説が生じやすくなった」ということだと思います。この本でいう「逆説」は「理想」と「現実」との間のギャップを指すことが多いと思います。ここでは市場主義の理想と現実との間に大きな隔たりが生じてしまったていることを「逆説」という言葉で表現していると思います。

実はロビイストについても、「理想」と「現実」との間のギャップがあります。「ロビー活動」の基本というのは一般市民や市民団体の代表などが自分を代表する政治家に要望を伝えたり、問題解決の必要性を訴えたりすることで、民主主義を更に充実させていく良い活動ですが、今ではロビー活動のための予算、また政治献金のための予算が非常に大きい企業の活動があまりにも多くなりすぎたために、一般市民の声が政治家にはあまり届かなくなったという「逆説」が生じていると言えるだろうと思います。

2012年1月23日月曜日

学内私書箱について

要望があり、講義のPowerPointファイルを学内私書箱に入れる約束をしましたので、今日、遅ればせながら、入れました。ただ、講義に出席していれば見る必要はないだろうと思います。むしろ、学内私書箱を見ることに時間をかけるようりも、テキストを読み直したり、自分のノートを読み返したりする方がいいだろうと思います。その理由としては次の点が上げられます。
  • PowerPointファイルは講義の後に修正していませんので、実際にその日に見せなかったスライドが多数含まれていることが多く、その日の講義のきちんとした記録にはなりません。
  • PowerPoint以外のビデオ、Twitter、pdf等、講義の中で見せたもの、話題にしたもので学内私書箱に入れていないものが多いです。
  • PowerPointのスライドは「読んで理解できるように」作られているものではなく、講義の説明のためのメモのようなもので、説明がないと理解できない、あるいは誤解を招くものも多いです。
  • 試験問題は理解を文章で示すことを求めていて、PowerPointにあった語句を暗記して答案に書いてもほとんど評価できません。
以上のような理由で、慌てて学内私書箱にあるファイルを見る必要はないと思いますが、一応参考までに載せました。

「リベラル派」とは?

次の質問が届きました。
P16の最後の行からP17のはじめにかけて、(逆に、リベラル派にとっては、こうした保守派のかたくななまでの政府への不信は、まさに「反知性主義」の証左であるかのように映る)とあるのですが、この内容がどうも理解出来ません。それまでの内容から、私はてっきり、どちらかと言うとリベラル派は共和党のことで、レーガン元大統領が保守大連合を束ねた事から保守派だと理解していたのですが、違うでしょうか?
次の返事を書きました。
一般的に、アメリカにおける「リベラル派」と言えば民主党のことで、共和党が「保守派」となります。普段、アメリカの中では民主党がliberalと言われ、共和党がconservativeと言われるが、やや紛らわしいのは、この章で指摘されているように、実は、民主党も共和党もいわゆる「自由主義」(liberalism)の伝統を汲んでいます。引用してくれた文では、一般的な意味合いで「リベラル派」という表現を使っています(つまり、民主党支持者を指す意味で)。「反知性主義」というのは、「理不尽」と言うか、「そこまで疑われる理由がないのに」というような意味だと思います。
このような質問を評価しますので、疑問に思うことがあれば、ぜひメールで質問を送ってください。

2012年1月11日水曜日

テキスト関連の試験問題

既にテキスト変更に関する投稿「成績評定」というページで書いているうに、テキストに関する問題の配点は4割となります。講義をよく聞いていても、テキストを読まずに試験を受けると合格点にならない可能性が高いので、必ずテキストを入手し読んでください。

ここで試験問題そのものを公開することができませんが、だいたいどのような問題になるのか、そしてどのように準備をすればいいかを説明したいと思います。
  • どのような問題になるのか?

    テキストの主なテーマはアメリカにおける民主主義です。最終回の講義でも説明するように、アメリカという国あるいは国民にとって民主主義はたいへん重要です。しかし、民主主義はアメリカ人としてのアイデンティティーの中心的な概念をなしていることは事実であっても、建国の日から現在にいたるまで、その崇高な理想と矛盾する現実・慣行などがいろいろありました。本書はアメリカの理想としてのデモクラシーとそのデモクラシーをめぐる矛盾(逆説)をさまざまな角度から扱っています。

    試験問題ではアメリカの民主主義と関連のあるいつかのテーマや事柄をリストアップして、その中から二つを選んでもらい、そのテーマや事柄関連の本の内容をできるだけ具体的に、できるだけ詳しく要約してもらいます。

  • どのように準備をすればいいか?

    「できるだけ具体的に」要約してもらうことになりますので、漠然とした記憶しかないとたいへん書きにくくなります。ほんの中の内容を全文覚える必要はありませんので、試験の前に本を見直して、興味をもった内容、驚いた内容、重要だと思った内容などをメモって、試験で具体的に要約できるように準備してください。もちろん、問題そのものを事前に公開していませんので、興味をもった具体的な内容であってもうまく試験問題に関連づけていけるようなものかどうかについては問題そのものを見るまだはわからないでしょう。しかし、アメリカにおける民主主義と関連のある具体的な内容を要約できるように準備をすれば、きっとその準備の多くが投稿を書く上で役に立つだろうと思います。

    なお、本書には具体的な「アメリカ事情」のほかに、比較的な難解な理論的な考察も含まれています。今回の問題は理論に関するものにはなりませんので、より具体的な内容を要約できるように準備をするといいと思います。しかし、難解と思われた内容について事前にメールで問い合わせてもらえれば、採点の際にその努力を考慮します。